次世代型ものづくり教育共同研究会

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研究計画

研究の目的と背景

平成30年改訂の高等学校学習指導要領では、主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)とカリキュラム・マネジメントが大きく注目されている。また、理数探究が新たに加わるなど、これまでの教授法が適さない学びの環境開発が急務となっている。本研究は、高等学校におけるものづくり教育に関心のある若手研究者と高校教員が共同で新たな教授法と評価法について授業研究を行い、ものづくり教育における、主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)とカリキュラム・マネジメントについての考察および提言を行うことを目的とする。

ものづくり教育は、施設・設備に教授内容が規定されてしまう特徴がある。また、小学校・中学校での異なるものづくり経験の上に、高校レベルや職業教育レベルの技術・技能を身につけさせる必要がある。工業高校でのものづくり教育は長い歴史に培われ、国際的にも低レベルではないにも関わらず、日本国内の規模は、学校数・生徒数また教育研究についても年々縮小しており、危機的状況である。その中で、東京工業大学附属科学技術高校(東工大附高)における取組は注目に値する。東工大附高は、130年以上の歴史を持ち、国立の唯一の工業高校として多くの工業人材を輩出している。近年は進学にも注力し、多くの有名大学に進学している。特に、「課題研究」における研究レベルや、科学コンテストでの受賞実績は国内トップレベルである。けれども、入学してくる生徒の多くは普通の中学生であり、特殊な技術・技能を有しているわけではない。ものづくりに集中し切磋琢磨できる環境があって、生徒たちは科学・技術の素養を身につけ、外部からも評価されるまでに成長していく。本研究は東工大附高の施設・設備や教員組織に着目し、この環境や教授法を分析し、他の高校やものづくりの現場に還元できる提言を行うことを目指している。

2022年度

上期

「次世代型ものづくり教育共同研究会」立ち上げの会議が6月に予定されており、発起人として参加し今後の研究方針について検討を行う。具体的には、東京工業大学附属科学技術高校のものづくりや研究実績を支える環境的・物的な要因(施設・設備)と人的な要因(指導教員や先輩からの支援等)について、調査項目の精査を行う。調査項目に沿った研究計画を作成し、今後の調査・研究の基礎を構築する。

 調査対象校は、長い歴史の中で構築された伝統とSSHに参加して得られた新しい知見が併存しており、今回の調査により、培われ構成されてきた教育課程の成立過程及び、その意義を分析解明することを目指している。

中期

上記の研究計画に基づき調査を実施する、調査対象は電気電子分野と機械システム分野を第一候補としたい。この2分野は特徴的な教育設備を保有し活用しているため、他の理数教育に注力している高校との比較分析が可能と考える。特に注目したいのが、電気電子測定器具や旋盤・溶接等の本格的なものづくりに必要な施設・設備類である。また、両分野ともデジタルファブリケーションを研究の中に取り入れるという特徴があり、これからのものづくり教育を提案する上で不可欠な要素を有していると期待している。3Dプリンタやレーザ加工機に代表されるデジタルファブリケーションは、東工大附高でも2013年以降に急速に普及したものであり、現在の「課題研究」や個人での研究に不可欠な工作機械となっている。STEM教育に注目が集まる中で、工業高校以外の普通高校等でも導入の可能性が高いデジタルファブリケーション機器の特徴を分析することで、普及活動に繋げていきたい。

下期

上記調査に基づき、分析活動および論文執筆に取り組む。教育工学会での発表を一つの目標として分析結果をまとめる。また参加大学の紀要なども活用し、広く研究成果を発表していくことを目指す。分析の視点として、①SSH導入に伴う教員間での教育課程の検討活動の役割について分析、②施設・設備の整備が教授内容に与える影響、の2点について検討を試みる。前者は、20年にわたるSSHの教育課程開発により、教員間での新しい授業作りが習慣化され、他の工業高校では見られない活発な授業開発活動が実施されていることを明らかにする。後者は教師が主体的に新しい導入機材を選定し、導入することが、新たな教授内容を取り入れるために不可欠であることをケーススタディを用いて検討する。

2023年度以降

東工大附高には他にも応用化学分野、情報システム分野、建築デザイン分野があり、2022年度の本研究により、研究手法の確立とともに同様の分析を行い、ものづくりを総合的に教える学校として、東工大附高の意義と役割について検討を行う。研究成果を広く普及させることを目指し、積極的なPR活動も同時に実施していく。

また、共同研究校の所在地である、東京、茨城、大阪にも次世代型のものづくり教育に興味を持っている高校は多数存在しているため、それぞれの地域の高校を見学および調査を行うことで、一定の汎用性のあるものづくり教育の実施要件を確立していくことを目指したい。